そのさん  スペイン語の授業で




 何とか無事にホームステイ先にも荷物を置き、今回の大きな目的である、「スペイン語を学ぶ」事になった。語学学校への入学手続きは済ませてあったので、指定されたところに行くだけである。

 当たり前だが先生は皆スペイン人。授業もすべてスペイン語である。確かに大学の第二外国語の授業で2年間勉強していたが、全くわけが違う。何を言っているのか全然分からない。

 文法は日本でやっていたが、文法用語まではスペイン語でやっていない。たとえば日本語で「今日は現在完了形を勉強します。」と言われればなんとなくその日にやっている事が分かるのだが、この「現在完了形」というスペイン語が分からないために、何をやっているのか見当がつかない。もちろん授業中に辞書を引く余裕なんて無い。とりあえず黒板に書かれた事をそのまんま夢中になってコピーする。そして家に帰って辞書を引いてはじめて「ああ、今日は現在完了形を学んだんだな。」というのが判明するのである。
 
 最初の1週間くらいは先生と目を合わせないようにして質問されないように逃げていたが、ある日いつものように夢中になって黒板に書かれている事をコピーしていると、教室が突然静かになり、みんなの視線を感じるのである。恐る恐る顔をあげてみると、皆がこっちを見ている。どうやらついに質問された様なのである。

 「もう一度いってください。」くらいは言えたので、例のフレーズ集にあったものを使ってみる。するとやはり何か質問しているみたいなのである。(最後に語尾が上がったので分かった・・・) ひとつの単語も聞き取る事が出来ず、「分かりません。」と答えると、不思議そうな顔をし、次の人に移っていった。

 今考えるとあの時の質問内容は「日本のどこの街の出身ですか?」とか「何人兄弟ですか?」みたいなものだったと思う。それを「分からない」と答えた自分が今思うと恥ずかしい。

 そんなエピソードはたくさんある。

左からエンリケ先生、唯一のドイツ人マティヤス、筆者、そして受付のお姉さん

1994年9月アカデミー”フォンセカ”にて

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