●マヌエル・バビローニ
リサイタルレポート
(1997年5月9日)


5月9日にマヌエル・バビローニが故郷カステジョンでリサイタルを行ないました。このリサイタルは95年に発表されたCDリサイタルの第4版のプレスを記念してカステジョン市役所が主催したものです。
 会場は市の中心に位置し、以前は修道院の礼拝堂だった所で、音響は抜群、約150人収容のホールは補助席も出され、それでも入り切れずに通常は使われない2階席までいっぱいになっていました。
 プログラムは演奏順に、ファンタシアOp21、悲歌風幻想曲(ソル)、コンポステーラ組曲(モンポウ)、マジョルカ、朱色の塔(アルベニス〜バビローニ編曲)でプログラムを見たときに休憩が無いのには驚きましたが、コンサートを聴いて納得、アンコール3曲を含め約1時間のリサイタルはあっと言う間に終わってしまいました。
 聴衆は演奏家の醸し出す親密的な音色と音楽性に包み込まれ、アンコールでは何人かのセニョーラ達が涙を流している姿も見受けられました。
 久しぶりに「心からギターを演奏している」リサイタルを聴くことができました。

●マヌエル・バビローニ・来日直前インタビュー

 このインタビューは5月9日のリサイタル後にマヌエル・バビローニの自宅のサロンで行なわれたものです。

 −今日は本当にたくさんの人が入りましたね。

マヌエル・バビローニ(以下M) 運のいいことにさまざまなところで広告を流してくれたからね。国営放送ラジオ2(クラシック専門局)では今日だけで少なくとも5回、ローカルからのラジオ局からも宣伝されたし新聞にも載ったからね。

 −プログラムにプロフィールを載せることはないのですか。

M たまに載せることもあるけど、だいたいはカットする。それよりも他のコンサートの様子を聴衆に読んでもらうことによって(この日のプログラムには、イギリスのクラシカルギター誌とスペインのアマデウス誌のCDレビューが引用されている)、感動できるコンサートを期待してほしいんだ。コンクール優勝も誰々のマスタークラスに参加したというのも悪くないんだけど、僕はメカニックな面や師匠筋のみでだけでのイメージを持ってほしくないんだ。

 −今日のコンサートでは充分それを達成していましたね。本当に感動しました。

M そう言ってくれると嬉しいよ。僕も楽しんで弾くことができたし、また音響やホールの雰囲気もそれを手伝ってくれたからね。

 −日本のギターファンのためにプロフィールおお願いしてもいいですよね。(笑)

M もちろん(笑)。バレンシア音楽院を卒業した後、V.アセンシオ夫人のマティルデ・サルバドール(作曲家)とJ.L.ゴンサレスに師事しました。もちろんマティルデ女史はギタリストではないので音楽を教わりました。非常に勉強になりました。

 −先日J.L.ゴンサレスのマスタークラスに初めて参加したのですが、演奏スタイルは似てないように思いますが。

M もう4年くらいは彼のレッスンを受けていないし、ひとりの演奏家としての個性を追求しているからね。でもどこかは似ているはずだよ。かなり影響を受けたからね。

 −マティルデ女史とのクラスはどんな感じでしたか。

M ギターを弾かない音楽家に教わることはとてもためになることだ、と言うのが第一印象だね。最初に音楽を教えてくれた父からの授業もそうだったように。さまざまな分野のヴィルトゥオーゾ達の演奏を一緒に聴きながら解説してくれたり、僕の演奏するギターを聴きながらギタリスト同士では気がつかないような指摘をたくさんしてもらった。一番充実し、心に残っているのは(内なる想い)<アセンシオ>の原譜を使ってマティルデ女史と一緒に譜面の読み直しをしたことかな。一番オリジナルに近い型で編曲することができたし、彼女もとても気に入ってくれた。

 −イエペスの編曲に満足していないから?

M いや、実は彼には81年にベニカシムでマティルデ女史の紹介で会っていたし、ゴンサレスを紹介してくれたのも彼だった。エステージャのゴンサレスのマスタークラスでイエペスに(内なる想い)を聴いてもらったし授業も受けたよ。とても気に入ってくれた。

 −先日イエペスが亡くなったニュースを見て驚いたのですが。

M 僕も本当に驚いたよ。調子が悪いことは聞いていたけど、まさかこんなに早く亡くなってしまうなんて...、数回しか会えなかったけど、とても紳士だった。

 −日本公演のプログラムはもう決まっていますか。

M  今日弾いたファンタシアOp21、悲歌風幻想曲(ソル)、コンポステーラ組曲(モンポウ)は入れるつもりで、その他にはCDに収録されているフォルテアの<5つの小品>とタレガの<12のプレリュード>、アセンシオの<アルバーダとダンサ>(内なる想いの静寂とよろこび)を弾くつもりでいます。

 −プログラムを見ていると故郷スペインの音楽が主ですが、外国の作曲家の作品も演奏しますか。

M 南米の作曲家ではヴィラ−ロボスが好きだよ。プレリュード、エチュードは全部弾いたし、今でもお気に入りだ。ポンセもバリオスも素晴らしい作品がたくさんあるし、その他ではウォルトン、バークレイ、バッハ...、バッハはよく弾いたよ。

 −そう言った曲がプログラムに載ることはないのですか。

M 海外では、スペイン人によるスペイン音楽が期待されているというのもあるし、やっぱり自分自身に一番合っていると思う。「水を得た魚」という感じかな。(笑)

 −リサイタルと同時にマスタークラスの予定も入っていますが...

M 教えると言うことは同時に教わることでもあるんだ。特に日本人はよく勉強するし、興味深い質問もよくする...思い当たることあるだろ?

 −ええ、まぁ...(笑)

M 自分にとって難しい質問が多ければ多いほど、僕にも得るところは大きいし、クラス自体もとても充実したものになるはずだよ。僕の知っていること、できることは隠さずに必要としている人には全部説明するように心がけている。

 −今までにどのような国をまわりましたか。

M 87年にアイルランドで行なわれた「セゴビア讃」のコンサートに招待されたのをきっかけに、トルコ、ドイツ、スイス、ブラジル、アイスランドをまわりました。昨年はイタリアでも弾いたし、今年の4月には3度目のドイツ公演を行ないました。

 −今後の予定は。

M 7月中旬から8月半ばまでの日本公演の後、イタリア2度目の公演を行なうつもりです。
 
 −日本のギターファン、音楽ファンにメッセージをお願いします。

M さまざまな人からとても素晴らしい国だと聞いていて、とても楽しみにしています。とにかく1度僕の演奏を聴いてほしいし、マスタークラスも体験してほしい。言葉でメッセージを送るよりも、ギターを通じてのコミュニケーションを図るのが僕の夢だからね。

 −今日は本当にありがとうございました。