第29回“メモリアル・ホセ・ルイス・ゴンサレス”国際ギター講習会

 2003年7月1日から11日まで第29回“メモリアル・ホセ・ルイス・ゴンサレス”国際ギター講習会がスペインのエステージャ(ナバーラ県)で行われました。

 年々スペインに滞在できる日数が減ってきているのが気にないますが、今年も何とか日本を脱出する事に成功し、16日間の滞在を満喫しました。

 今回は日記形式でレポートいたします。

6月30日(月)

 前日のクラスタでのコンサートの疲れを感じる暇もなく、新宿のホテルから成田空港へ出発。予定通りの時間に到着し、ギターもちゃんと持込を許され搭乗。それでもカウンターではギターケースの重さとサイズは測っていましたが、乗客が少ないから問題無いとのことでした。飛行機に乗るときは常にこの問題に頭を悩まされます。いつも楽器持込には寛大なJALを選んでいます。本当に驚くほど乗客は少なく、私の横には誰もいなかったので、仰向けになって寝ることが出来ました。


 アムステルダムには定刻に着いたのですが、乗り継ぎはイベリア航空、やはり2時間遅れでした。更に「ギターは持ち込めません。」と言われ、しばらくは口論が続き、最終的に「全ての乗客が荷物を機内に置き終わって、まだスペースが残っていたらOK。」と言い出すしまい。こちらは、さらさら預けるつもりは無かったので、その言葉を無視し、さっさと機内へ乗り込み、ギターを真っ先に置きました。結局乗客は確かに多かったものの、スペースは充分にあり問題ありませんでした。それにしてもこの問題からは早く開放されたいものです。何とかならないのでしょうか。

 迎えに来てくれる事になっていた、マドリッド在住の先輩高木さんには「マドリッドには10時着」と言ってあったので、かなり心配でしたが、さすがに彼のスペイン滞在歴は長く、「11時30分過ぎに着いたよ。」との事。それでも1時間以上空港で待たせてしまいました。

 その夜は高木さんの家に泊めてもらいウイスキーを飲みながら1年ぶりの再会に楽しいひと時を過ごしました。

7月1日(火)
 
 時差ぼけのせいか、早めに目がさめていたので、10時30分のバスでパンプローナへ向かうことを決意。準備を済ませ高木さんに挨拶をして路線バスを使いAv.de Americaのバスターミナルへ。途中で間に合うかどうか不安になったので、タクシー乗り場を見つけて下車、タクシーで向かうも朝の混雑に巻き込まれ5分遅れで逃してしまいました。次のバスは午後3時までなく、これで行くと乗り継ぎのエステージャ行きのバスには間に合わない。どうしようと考え、とりあえずパンプローナに住んでいる旧友のアレハンドロに電話をする。「もう来る頃かと思っていたよ。心配するな、エステージャには俺が車で送ってやるよ。」との一言。安心して3時発のバスの切符を買う。

 バスの時間まで4時間ほどあったので、トラベラーズチェックを換金し、遅めの朝食をとり、頑張って電話番号を思い出した友人の大槻君と昼ご飯を食べることにしました。彼とも1年ぶりの再会。とても元気そうでホッとしました。近況などを交換し合いあっという間に楽しい時は過ぎていきました。

 約5時間でパンプローナに着くとアレハンドロとロサーナ、その友人で出迎えてくれました。アレハンドロは素晴らしいギタリストなのですが、教職に就き今は全くギターを弾いていないとの事、とても残念でした。


左からロサーナ、アレハンドロ、ロサーナの友人。(携帯電話のカメラにて撮影)

 エステージャではいつも講習会で顔をあわせるアメリカ人のデイビッドと今年初めてエステージャの講習会に参加したパンプローナ出身の18歳アマーヤと16歳のサラ、そしてエステージャに住むミリアンと夕食をとりました。


 毎年泊まっているオスタル・サン・アンドレスの人々はいつもどおり元気に私を歓迎してくれました。今年はちょっと贅沢にバスルーム付の部屋に泊まりました。(それでも1泊2500円くらい) ちなみに去年までは1泊800円のベッドのみの部屋にいました。

1番左がオスタル・サン・アンドレス

左からサラとアマーヤ

7月2日(水)〜9日(水)

 初日を逃しましたが、何とか講習会の2日目から参加できました。やはり文化館「フライ・ディエゴ」の中庭はとても特別な空間と雰囲気があります。

講習会の開始を知らせる新聞記事。(Diario de Navarra 7月4日付)
        
レッスン風景
 
 時差ぼけのせいか、いつも7時には目が覚め、8時の牛追いをテレビで見てから約2時間練習、朝食をとってからレッスンへ、という生活が続きました。今年はレッスン開始時間が10時半と少し遅く、また夜はほとんど飲みに行かなかったので練習三昧といった感じでした。指にはたこが出来、学生時代を思い出しました。非常に健康的な毎日でした。
 今回の講習会もたくさんのレパートリーを聴く事ができました。特にカルカッシの練習曲ばかりを弾いたデイビッドの演奏には、カルカッシを根本的に見直さなくてはという思いがしました。また地元エステージャで音楽院の講師をしているミリアンのレッスンでは、彼女の生徒を前に教育実習的なレッスンもありました。教授法という観点から、とても興味深い指摘がたくさんありました。生徒のレベルと進歩する過程をしっかりと見守ってくれるマエストロの優しさにとても感動しました。ちなみに私はソルのソナタOp.15−2、テデスコのタランテラとソナタを見てもらいました。
 昨年まではどちらかというと、昼食と夕食の場所は決まっていましたが、今回は女の子たちが多かったせいか、「いつも同じ所ではつまらない」との意見に、毎回レストラン巡りをしました。メニューを見て意見が割れることもしばしばありましたが、私とデイビッドは言われるがままに行動していました... 正解だったかな。

テラスでの昼食

7月10日(木)

藤井敬吾作曲“夕暮れ”〜J.L.ゴンサレスに捧ぐ〜スペイン初演


 
10日には文化館「フライ・ディエゴ」の中庭でマエストロのリサイタルがありました。中でも今回とても興味深かったのは、バビローニに献呈された藤井敬吾作曲“夕暮れ”〜ホセ・ルイス・ゴンサレスに捧ぐ〜のスペイン初演でした。藤井氏とバビローニは、ホセ・ルイスの下で同じ時期に学び、親友でした。ですから今回の組み合わせはとても感慨深く、まさしく作るべき人が作曲し、それを演奏すべき人がこの場所以外考えられない、というところで初演されたものだったのです。ホセルイスを知る人、エステージャの講習会の伝統を知る人にとって感動的で、多くの人がハンカチを手にしていました。これからもより多くの人がこの感受性豊かで素晴らしい傑作を演奏されることを期待します。この日のプログラムは、
     5つのプレリュード <ヴィラロボス>
     2つの練習曲    <ヴィラロボス>
     ショーロス No.1  <ヴィラロボス>
     10の小品     <トローバ>
     夕暮れ ホセ・ルイス・ゴンサレスに捧ぐ(スペイン初演) <藤井 敬吾>


でした。アンコールにはアルベニス作曲アストゥリアスとスクリャービンのプレリュードでした。

7月11日(金)

発表会の結果を知らせる記事。(Diario de Navarra 7月12日付)                                     


 最終日11日の午前中は生徒達の発表会です。昨年同様、小高い丘の上にある老人ホーム「サント・ドミンゴ」の礼拝堂で行われました。生徒達はこの講習会での上達の成果を余す事無く発揮し、素晴らしい発表会になりました。聴きに来てくれた人達もとても喜んでくれました。


          最後に講習会生参加者全員で















7月12日(土)

  あっという間に講習会は終わってしまいました。この日はマドリッドに戻る日です。お昼のバスまで時間があったので久しぶりにバシリカのある小高い丘に登りました。ここは、6年前はじめてエステージャに来たとき以来だったのでとても懐かしかったです。あれからいろいろな事がめまぐるしく起こったと思い出にふけってしまいました。

  サンフェルミンの祭りに出かけるミリアンと一緒にパンプローナへバスで向かいました。

  パンプローナに着くと、一足先に帰っていたベアトリスが車で迎えに来てくれました。そして本当に久しぶりに再会するバレンシアのエレーナとカステジョンのパコに会えました。二人は前の晩に車でやはりサンフェルミンの祭りを満喫するために6時間もかけて来ていたのです。

  マドリッド行きの電車はてっきり6時15分に出るものばかりと思っていましたが、その時間の列車は「土曜日以外毎日」というなんとも皮肉な状態で、結局のんびり彼らとは話す時間もなく、4時の急行に乗る羽目になってしまいました。そのときの駅での写真を1枚、

右からベアトリス、エレーナ、パコ、ミリアン

  皆と別れ、その急行に。サラゴサ経由でなく、ビトリア経由でマドリッドに行くのは初めてで、あまりにもあわただしく、水も買えずに乗り込んでしまいました。普通タルゴとか、インテルシティと呼ばれる電車には売店があるのですが、この急行には無く、夜11時30分にチャマルティン駅に着くまで我慢する羽目になってしまいました。もしかしたら今回の旅でいちばんきつかったかも知れません。

  この日から帰国まで大槻君の所に泊めてもらい、無事に2003年夏のスペイン旅行は終わりました。帰国の前日には現在王立音楽院で学んでいる日本人留学生たちとも会うことが出来ました。

  来年はエステージャの講習会も第30回を迎えます。エステージャの講習会を訪れたことのある多くの日本人の方々の再訪問を心から期待しています。

  これで今回のレポートはおしまいです。最後迄お付き合いいただき、ありがとうございました。